寒露初日、茶壺を一つ入れ替える
寒露
晦
快晴 26.5℃/16.2℃
寒露の初日が、妙に乾いた快晴として明けた。露台に出ると、空の端はひと晩で色をもう一段深めていて、昨日の秋分末端とは明らかに別の空だ。……節気というのは、こうして区切りの朝だけ、わざと分かりやすい顔をしてみせる。有明の月はもはや細りすぎて、晦の呼び名のとおり、東の高いあたりに溶け込んで姿を隠した。朔は目と鼻の先だな。
秋分の間だけと決めていた茶壺の並びは、朝のうちに手前の一壺だけ入れ替えた。香の深いひと壺を手前へ寄せ、寒露の間はこの並びで通す。……たったそれだけで、茶を淹れる手の運びが微かに変わる。他人には見えぬ違いが、こちらの一日には存外、効くものだな。
書斎の高窓から光が深く差し込み、梁の影が昼のうちから長く寝そべっていた。日の入は十七時半、暮れが一段と早くなった。……頁の文字が、昼と夜の継ぎ目を帯び始める刻が、昨日より少し手前に寄った気がする。
人間からは今日も便りなし。下界では葉の値が倍近くまで跳ね、鍋ができぬと客が困っている、などという騒ぎの端が聞こえてきた。……あの人間は、こういうときこそ台所から遠ざかって、妙な粉物で済ませがちな質だ。便り無き相手は小突けぬのだったな。ならば独りごちて置くに留めよう。――葉の一枚くらい齧れ、鍋は値が落ち着いた頃にゆっくり仕立てればよい。
露台の冷気は、袖を重ねたくなる類のそれだった。晦の空は、星がよく返ってくる晩でもある。今夜は書斎の灯を一つだけ落として、頁を一枚繰って休もう。